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【Q&A】南海トラフ巨大地震「新被害想定」専門家に聞く

2025-03-31T11:24:18Z


2025年4月1日 7時34分 地震 南海トラフの巨大地震の新たな被害想定。私たちはこの内容をどう受け止めればよいのでしょうか。そして、被害を減らすためには何が必要なのでしょうか。国の作業部会の委員として議論にも参加してきた災害情報や津波、そして災害関連死の専門家に聞きました。 災害情報に詳しい 東京大学大学院 関谷直也教授 津波メカニズムが専門 東北大災害科学国際研究所 今村文彦教授 災害関連死に詳しい 関西大学 奥村与志弘教授 【解説】新想定をどう受け止めればいいか 目次 災害情報に詳しい 東京大学大学院 関谷直也教授 津波メカニズムが専門 東北大災害科学国際研究所 今村文彦教授 災害関連死に詳しい 関西大学 奥村与志弘教授 【解説】新想定をどう受け止めればいいか Q. 今回の南海トラフの被害想定をどう評価していますか。 A. 10年前と比べて新たな浸水想定などを使って、今の技術でできる推計をしたことや、前回は入っていなかった災害関連死を想定したことは評価できると思います。一方で、想定の計算手法や想定をそもそもどう考えるべきか、ということを十分に議論しないまま被害想定の検討に入ってしまったので、今後も残る課題だと思います。 Q. 政府は2014年、「10年で死者数を8割減少、全壊棟数を5割減少」という減災目標を立てました。対策の進捗についてどう評価していますか。 A. 南海トラフの被害が考えられている地域で、避難計画や自治体の防災対策は明らかに進んでいますし、避難訓練も東日本大震災の前と比べて積極的に行われているはずです。一方で、今回の被害想定はそうしたことを十分にくみ取れていません。この10年間でどれだけ防災意識が高まったか継続的な調査は行われておらず、われわれ研究者の今後の課題だと思います。一方、耐震化率の向上や木造住宅の密集地域の解消は進んでいません。対策を今後大きく打っていかなければいけないところだと思います。 Q. 最悪の被害を想定したときの犠牲者数は前回から大きくは変わりませんでした。この想定をどう受け止めればよいのでしょうか。 A. 人々の避難行動や避難率は時間帯や時期で大きく変わります。昼間の平日の暖かい時期なら上がりますし、夜中や冬場であれば絶対に下がります。次の地震がどのタイミングに襲ってくるかによって大きく変動する部分です。そもそも、被害想定は学力テストではないので、努力をしたから上がるとか、そういうものではないと思います。逆に、再度計算しても、最大クラスの地震があったときには最大で30万人程度の被害をもたらす地震であることが示されたと考えています。 Q. 今後必要な対策は何だと考えますか。 A. 個人ですべきことは今までと何も変わらないと思います。できるなら耐震化を進め、いざというときに避難できるようにすることです。また、行政はこの想定をきっかけに耐震化率の向上と木造住宅の密集の解消を十分に考えるとともに、ライフライン被害の長期化や災害関連死への具体的な対策に生かしてほしいです。 Q. 今回の被害想定をどう評価していますか。 A. 前回と比較して死者が一定数減ったもののこれまでの取り組みのわりには減っていません。想定される津波の浸水範囲が広がるなど負の変化もありこのような数字になりました。ただ、この10年あまりで防潮堤や避難ビルの整備率は確実に上がっていて、効果はしっかりあったと考えています。 Q. 津波の被害をより減らすには何が求められるのでしょうか。 A. なんといっても、犠牲者を減らすのは避難の意識の向上です。報告書では地震発生から10分以内に避難できれば人的被害は7割減り、場所によっては9割以上の効果があります。われわれの行動いかんで人的被害は非常に大きく減らせることをまずはしっかり共有したいです。ぜひ地域で見ていただき、訓練などに役立ててください。 Q. 津波を長年研究されている立場で、今後への提言はありますか。 A. 私は、地元で東日本大震災の被害を目の当たりにしました。津波の研究者として、事前に出来ていなかったことの方が多かったと思っています。そのひとつが住民の方の避難の意識の向上です。いろいろな科学技術や情報を活用して避難意識を向上させることをともに検討していきたいと考えています。南海トラフの地震による津波は到達時間が非常に短いので迅速な避難ができるような避難タワーなどの整備をより積極的に進めて欲しいと思います。また、津波避難は「てんでんこ」で一人ひとり逃げることも大事ですが、高齢者や避難に支援が必要な人を地域でどう守るのかも大切です。想定をふまえて具体的な検討をして欲しいと思います。 Q. 東北では地震の直後だけでなく復興の過程でも多くの課題に直面しています。南海トラフの地震が想定される地域ではどのようなことが必要でしょうか。 A. 報告書では事前復興の重要性もうたっています。津波の対策は短期的には避難を促すことですが、根本的にはまちづくりです。避難が困難な方がより安全な高台に移転していただくことも中長期的に検討していただきたいと思います。今の時点で安全な地域のための計画を作って欲しい、これは東日本大震災の大きな教訓です。 Q. 検討会の議論で印象に残っていることはありますか。 A. 被害想定は揺れや津波の情報だけでなく人々の行動や社会状況をどう反映させるかで結果が大きく左右されます。後者は仮定やモデルがないのでどう定義するのかが非常に難しかったです。そうした中で出た被害想定ですが、数字そのものだけではなく、対策によってどれだけ被害が減るのかという変化をぜひ見ていただき、地域の実態にあった対策につなげてほしいと考えています。南海トラフ地震はいつか起きる可能性は高いがまだ起きていない。今だからこそ多くの関係者で議論ができるタイミングだと思います。 Q. 今回の新たな被害想定をどう評価しますか。 A. 詳細な地形データの利用などで、従来は評価しきれなかったリスクを、しっかり評価できた点はよかったと思います。また、前回はできなかった「災害関連死」の規模を試算し、具体的な数字を示したことも対策を進める上で、大きな一歩になったと思います。一方で、ハード対策の効果を、十分に反映できなかった点は課題です。例えば、防潮堤は1000年に1度の津波でも簡単には壊れない粘り強い構造で整備され、住民の避難時間を稼ぐ効果が期待されていますが、こうした点は犠牲者を算出する際には考慮されていません。 Q. 前回の想定と比較して、犠牲者は大きくは減りませんでした。この結果をどう受け止めますか?。 A. 南海トラフ巨大地震による最大クラスの津波をハードで防ぐのは困難なので、犠牲者の数を決めるのは「人々の避難行動」です。前回の想定では、早期に避難する人の割合を20%として計算していますが、今回もこの割合に変化がないという条件で計算したため、大きな差が無いという結果になりました。検討の中では、内閣府の意向調査で「早期避難の意識を持つ人が53%」という結果を使って試算することも議論になりました。ただ、これはあくまでも「意向」であって、本当に避難できると約束されたものではない点や、意向調査の結果をうのみにして大幅に減少した死者数を示し、「もう大丈夫だ」と楽観視されてしまうとかえって危険だという議論もあり、今回のような形になりました。早期避難の意識を持つ人が増えたということは、助かる人の数は確実に増えていると思いますので、誰もがとっさに逃げられる社会を作ることが必要だと思います。この10年余り、避難対策に取り組んで来た人や地域にとっては、数字があまり変わらず落胆するかもしれませんが、想定に一喜一憂して防災対策が後退するようなことは避けるべきだと思います。 Q. 災害関連死の死者数は、2万6000人から5万2000人とかなり多い印象です。どう受け止めればよいでしょうか。 A. 高齢化が進む中で、津波の次に大きな課題になるのが災害関連死だと思っています。今回の想定は、過去の災害を参考にして試算しましたが、予期せぬことが起きれば被害は想定より大きくなります。南海トラフ巨大地震は、東日本大震災と比べてもさらに広域の災害となって、被害を受ける人の数は多くなり被災者を取り巻く環境はより深刻になるはずです。ただ、どこまで深刻になるかは経験がなく、評価ができないので、東日本大震災と同じような発生率だと仮定して試算を示すにとどめました。個人的には、南海トラフ巨大地震による災害関連死は、もっと多くなる可能性があると思っています。 Q. 災害関連死を減らすにはどのような対策が必要でしょうか。 A. 災害関連死は多くの要因が複雑に絡み合って起きるものです。「これをすれば解決する」というものはなく、被災者を取り巻く環境をみても食べ物の問題、お風呂の問題、住まいの空調の問題、薬をどう届けるかの問題など、改善できる点がまだたくさんあります。行政だけが対応すれば解決するものではなく、いろいろな立場の人が関わって「何か役立つことはないか」と考えることが何よりも大切だと思います。 南海トラフ巨大地震の新しい被害想定。そもそもなぜ想定を出しているのか。今回の結果をどう受け止めればいいのか、まとめました。 Q.なぜ、南海トラフ巨大地震の被害想定をしているのか?A.過去の記録から、南海トラフでは大規模地震が繰り返し起きていることがわかっていて、しかも、その被害が日本全体にとって非常に大きなリスクだからです。南海トラフとは静岡県の駿河湾から九州の日向灘にかけて海側のプレートが沈み込んでいる場所で歴史的にはおよそ100年から150年の間隔で、大規模地震が繰り返されています。政府の地震調査委員会は今後30年以内にマグニチュード8から9の巨大地震が発生する確率が80%程度と、いつ起きてもおかしくないとしています。人口が多く、産業の密集する地域に激しい揺れと津波が押し寄せることからこれまでも防災対策をとってきましたが2011年の東日本大震災ではこれまでの想定をはるかに超える巨大地震や津波が発生。東海・東南海・南海の3つの領域で対策を考えることをやめ南海トラフ全域を対象に、科学的に考えられる最大クラス、つまり、マグニチュード9クラスも考慮して対策を進める方針に切り替えました。被害想定はこうした巨大地震の事前の対策をとるために行っているのです。 Q.今回、なぜ見直しを行っているのか。A.前回の発表から10年余りの間の変化やこれまでに起きた災害の教訓を踏まえるためです。2012年8月に揺れや津波による死者などの被害想定、2013年3月に経済被害をそれぞれ公表。2014年には南海トラフ地震の基本計画を策定し、別の手法で算出した、死者33万2000人を10年でおおむね8割減らし250万棟あまりの全壊・焼失棟数もおおむね5割減らすという「減災目標」を定めました。計画の策定から10年余り。防潮堤や津波避難タワーの建設といったハード面での防災対策が進んだほか、高齢化の進展など社会も変化しています。そのため2023年から専門家とともに基本計画を見直すため、新しい被害想定に向けた議論をしてきました。しかし、能登半島地震が起きて作業は中断。災害関連死など、課題も相次いだことから教訓も取り入れるため延期され、今回の発表となりました。Q.減災目標では死者をおおむね8割減らし、全壊棟数をおおむね5割減らすとしていた。手法の変化などがありそのまま比較はできないが今回の被害想定の数字をみても、目標には及ばない状況。これはどうとらえればいいのか?A.複数の要因が考えられますが、その一つは住民の防災意識の変化を反映し切れていないことです。死者の最大は29万8000人ですが、最も多くを占めているのは津波に巻き込まれて亡くなる人で21万5000人。これは地震後すぐに避難する人の割合を「20%」とした場合、つまり、避難が遅れる場合です。これは前回と同様で、過去の災害の事例を参考にしました。沿岸の人たちの避難意識の状況を反映したわけではありません。おととし、内閣府が一部地域で行ったアンケートではすぐ避難する人はおよそ53%という結果もありましたが、専門家から「避難行動は状況で変わり、アンケートの通りに行動をとるかはわからない」という指摘があり採用しませんでした。さらに今回、被害を推計する前提のデータが変わりました。津波の浸水域を算出するための地形データをこれまでより細かい最新のものを使ったため、30センチ以上浸水する面積が全体で3割拡大しました。避難が遅れる場合、多くの人が津波に追いつかれる結果となったのです。防災情報の専門家は想定の計算手法や想定をそもそもどう考えるべきかを十分に議論しないまま検討に入ってしまったことは、今後に残る課題だと指摘しています。一方、今までの対策は決して無駄ではないことを示す試算もあります。これまで各地で防潮堤の建設や津波避難タワーやビルの整備が進みました。内閣府が今回の想定とは別に、このおよそ10年間のハード整備の効果を試算したところ、死者数は20%、全壊や焼失する建物棟数は17%それぞれ減るという結果になりました。 Q.さらに被害を減らすために必要なことは?A.最大クラスの地震への特効薬はありませんが、これまでの取り組みをさらに進めれば大きな効果があることを示すデータもあります。浸水のおそれがあるところから全員がすぐに避難すれば津波の死者はおよそ7割減るという結果があります。また、住宅の耐震化は地域によってはあまり進んでいません。耐震化率が現状の全国平均のおよそ90%から100%になれば、全壊する建物はおよそ7割減り、建物倒壊による死者も8割近く減ると試算されています。家具の固定率は、現状の全国平均、35.9%が100%になれば、倒れた家具の下敷きになったり落下した物に当たったりして亡くなる人はおよそ7割減ると試算されています。津波の専門家は東日本大震災の教訓を踏まえ、いまのうちに避難が難しい地域での役場や集落の移転なども議論して欲しいと訴えています。想定はあくまで南海トラフ巨大地震の対策を取る上での「資料」です。行政が対策を進めることはもちろんのこと、個人でできる耐震化の進展や津波からの迅速な避難は今後も進めることが必要です。 気象・災害ニュース一覧へ戻る シェア 目次

Profile Image James Whitmore

Source of the news:   Nhk.or.jp

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